第32回年次大会(2023年)実施報告・発表概要 |
日時: | 2023年3月4日(土)12:50~17:50 |
場所: | オンライン開催 |
大会運営委員長: | 加賀 岳彦(日本女子体育大学) |
大会運営副委員長: | 川﨑 修一(日本赤十字看護大学) |
大会運営委員: | 奥井 裕(和光大学非常勤) |
佐藤 亮輔(北海道教育大学札幌校) | |
島野 恭平(埼玉県立春日部工業高等学校) | |
関田 誠(東京電機大学) | |
鴇﨑 敏彦(日本獣医生命科学大学) | |
松本 恵美子(順天堂大学) | |
森景 真紀(北里大学) | |
大会総合司会: | 川﨑 修一(日本赤十字看護大学) |
◆11:00~12:30 | 役員会 | 司会:会長 野村 忠央(文教大学) |
※ | 役員の方々は「役員会参加URL」からオンラインにてご出席をお願い申し上げます。 | |
※ | URLは事前にメーリングリスト経由でお送り致します。 | |
◆12:50~13:15 | 総会 | 司会:事務局長 土居 峻(名古屋大学非常勤) |
※ | 「本部・研究発表第1室URL」からご参加下さい。 | |
※ | 総会では役員、一般会員を問わず、多くの会員の皆様のご出席をお願い申し上げます。 | |
◆13:20〜13:30 | 開会の辞 | 会長 野村 忠央(文教大学) |
◆13:30〜15:00 | 〈特別講演〉 | 司会:奥井 裕(和光大学非常勤) |
(※特別講演は質疑応答を含め90分です。) | ||
「作品から事件を「捜査」する―グレイのオードについて」 | |
植月 恵一郎(日本大学特任教授) |
英文学を志す者なら、おそらくほとんどの人が夏目漱石(1867-1916)に対する何らかの憧憬を抱いていると思います。その傑作小説群の嚆矢となる『吾輩は猫である』(1905-06)は、本来一話限りのつもりだったのが、「虚子が面白いから続きを書けというので、だんだん書いて居るうちにあんなに長くなって了った」(「処女作追懐談」1908年)わけですが、途中で、素人藤代禎輔(1868-1927)から横やりが入ります。つまり猫が主人公たる先行作品である、ホフマン(Ernst Theodor Amadeus Hoffmann, 1776-1822)の『牡猫ムルの人生観』(Lebensansichten des Katers Murr, 1819-21)への言及が一切ないという「猫文士気焔録」(1906)での指摘です。漱石は、「先達ってカーテル・ムルと云う見ず知らずの同族が突然大気焔を揚げたので、ちょっと吃驚し」(『吾輩は猫である』第11話)、結局、「吾輩」を始末しにかかります。ビールに酔った挙句、水甕に落ちて溺死するのは周知の通りですが、この猫の溺死は、グレイ(Thomas Gray, 1716-71)が詩(“Ode on the Death of a Favourite Cat Drowned in a Tub of Goldfishes,” 1748)に詠んだ牝猫セリマの溺死に影響を受けたと言われています。さて、このセリマの死は、一見、事故死と思われるのですが、講演では、他殺説を展開してみたいと思います。 |
◆15:05~17:40
|
〈研究発表〉 |
|
(※発表時間は35分:発表25分+質疑応答10分です。) |
|
|
◆研究発表第1室
|
※「本部・研究発表第1室URL」からご参加下さい。 |
|
★15:05~15:40 | 司会:松本 恵美子(順天堂大学) |
「高校生の異文化理解についての意識とその変化について」 | |
佐藤 亮輔(北海道教育大学札幌校) | |
市川 瑞葵(北海道札幌東豊高等学校) |
『高等学校学習指導要領』(文部科学省、2018)では、「外国語の背景にある文化に対する理解を深め」ることが求められている。『高等学校学習指導要領解説』(文部科学省、2018)によると、これは単に外国語の文化的背景についての理解を深めるだけでなく、その学習活動をとおして「他者に配慮し受け入れる寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得し、多面的思考ができるような人材を育てること」も目標とされている。 |
しかし、現行の高等学校外国語科(英語科)では独立した科目として「異文化理解」は設定されておらず、高校生がどの程度異文化への理解を深め、他者への寛容の精神や平和・国際貢献などの精神を獲得しているのか明らかではない。 |
そこで本研究では英語科の授業内で、はじめに高校生にアンケートを行うことで、現状の異文化理解への意識調査を行った。その後、異文化理解へと繋がる画像を用いた教材を取り上げ、さらにアンケート調査を行った。このことによって、生徒の異文化に対する理解度や態度がどの程度変化するかを調査した。本発表ではこの調査結果をもとに高校生の異文化理解とその意識の変化を分析し、英語教育に異文化理解教育をいかに活かすか議論したい。 |
★15:45~16:20 | 司会:島野 恭平(埼玉県立春日部工業高等学校) |
「伝統文法における分離不定詞の扱われ方」 | 菊地 遼太郎(学習院大学大学院生) |
現代英語の文法書では、分離不定詞について次のような記述がある。 |
(1) | it is probably the best-known topic in the whole of the English pedagogical grammatical tradition.(おそらく英語教育の歴史上もっともよく知られたトピックである) |
(Huddleston and Pullum 2002: 581、日本語訳発表者) |
本発表では、「分離不定詞(Split Infinitive)」が一文法現象としてどのように記述されてきたかを扱う。伝統文法の頂点であるLowth(1762), Murray(1795)の文法観を概観したのち、機能・意味を重視するCurme(1931, 1947)、形式に重きを置いているJespersen(1926, 1940)を比較することにより、分離不定詞とはどのような文法現象なのか、その性質に迫る。林・安藤(1988)によるとCurmeの著書は、形式よりも機能・意味を重視している点で Jespersen の著書といちじるしい対照をなしている。 |
通時的には、IPという機能範疇の創発による不定詞標識toの構造変化([PP to [NP V + enne]] > [IP [I’ to [VP V]]])が分離不定詞という表現形式を可能にしたと説明できる。 |
また、現代英語の話し言葉における否定分離不定詞(to not do)の論考より、 |
(2) | You have to not say that word. [Rosie, 4 years old] |
(3) | He tended to not like people who refused to be subservient to him. [male Sinatra biographer, Morning Edition, NPR, 9 Dec. 1998] |
などの例文から、母語話者がどのような動機でそのような形式を用いるのか、語用論の観点から論じる。アクセントや強調の位置が変わるので、修辞的効果を「弱・強」のリズムで生み出していると主張する。 |
★16:25~17:00 | 司会:川﨑 修一(日本赤十字看護大学) | ||||
「circumlocutionという視点から時間的隣接に基づくメトニミーについての考察」 | |||||
森 創摩(千葉工業大学非常勤) |
時間的隣接に基づくメトニミー(「時間のメトニミー」や「原因‐結果のメトニミー」とも呼ばれる)とされる表現は以下の(ⅰ)と(ⅱ)をはじめ問題点をいくつか抱えている。 |
(ⅰ)経済的ではない例がある: | |||||
佐藤(1992)によると、メトニミーは表現の経済原理に基づく比喩形式である、と説明する理論がある。しかし、これは、空間的隣接に基づくメトニミーに言えることであって(John picked up the phone. / The kettle is boiling.)、時間的隣接に基づくメトニミーには言えない例が非常に多くある(Ellen dropped her jaw at sight of him.(「驚いた」を意味する))。 |
(ⅱ)時間的に先行する、後行する、同時に起こるのかはっきりしない例がある: | |||||
時間的隣接関係のメトニミー表現は、先行研究では、時間的に先行するイベントがその後に起こるイベントを表す(原因が結果を表す)場合と時間的に後に起こるイベントがその前に起こるイベントを表す(結果が原因を表す)場合に分類されることがあるが、時間的に先行するのか、後行するのか、あるいは同時に起こるのかはっきりしない例がある(He took off the uniform at last.(「引退した」を意味する))。 |
本発表は、時間的隣接に基づくメトニミーに代わるアプローチとして語用論の技法の1つであるcircumlocution(「婉曲表現」「迂言法」「迂回表現」などと訳され、現時点ではまだ定訳はない)を示し、circumlocutionによって、メトニミーが抱える一連の問題点を解消できることを主張する。 |
◆研究発表第2室 | ※「研究発表第2室URL」からご参加下さい。 | ||||
★15:05~15:40 | 司会:野村 忠央(文教大学) |
「存在のthere構文の意味的な諸特性について」 | 清水野 貴大(東北大学大学院生) |
本発表ではThere is a man.のような虚辞のthere、コピュラのbe、そして後続する名詞句から構成されるthere構文を扱う。there構文は名詞句が最も狭い作用域をとることや、定性効果(*There is every man)を示すことが観察されている(McNally(1992))。 |
McNally(1992)は存在のthere構文におけるbeは内項として名詞化された述語をとる存在動詞であると提案した。しかし、McNallyの提案はthere構文のbeが存在動詞であるというアドホックな仮定をしている点で問題である。
|
本発表はAsp主要部による動詞の持つイベント項への存在量化の適用(Ramchand and Svenonius(2014))を拡張し、動詞以外の述語にも適用されると提案する。この提案の下では存在のthere構文に現れる名詞句が定性効果を示し、最も狭い作用域を取るという事実がAsp主要部による名詞句の持つ項への存在量化によって説明される。したがって、存在のthere構文に特有の仮定に依拠することなくthere構文に関する諸特性を説明できることを主張する。 |
★15:45~16:20 | 司会:中川 直志(中京大学) | ||||
「省略のタイミングと省略箇所からの抜き出し」 | 齋藤 章吾(弘前学院大学) |
一般的に、省略箇所からの抜き出しが起こる場合は、抜き出し要素の基底生成位置を含む統語構造が存在し、その構造にPF削除を適用することで省略が起こると分析される。一方、そのような抜き出しが許されない場合は、統語構造が存在せず、LF部門で適切な要素が先行詞からコピーされることで省略が起こると分析される。しかし、近年、省略箇所からの顕在的な抜き出しが許されない場合でも、非顕在的な抜き出しは許される事例が観察され、統語構造を伴わないと考えられていた事例を再考する余地が出てきた。例えば、イギリス英語で非定形のdoを伴う省略は、省略箇所からの顕在的wh移動を許さない一方、非顕在的数量詞繰り上げを許す。 |
(1) | I don’t know what Tom will buy, but I know what Fred will (*do). |
(Thoms and Sailor(2017: 145)) | |
(2) | Rab won’t try more than two thirds of the exam. I won’t do, either.(+2/3>¬) |
(ibid.: 148) |
本発表は、省略箇所からの顕在的抜き出しと非顕在的抜き出しの違いが、省略と抜き出しのタイミングによって説明されると主張する。具体的には、省略が統語派生の途中で適用されると仮定し、抜き出し操作が省略の前に適用される場合は顕在的となり、省略の後に適用される場合は非顕在的となると分析する。本発表では、英語と日本語の省略を取り扱う。 |
★16:25~17:00 | 司会:茨木 正志郎(関西学院大学) | ||||
「英語のsoever自由関係節に関する一考察」 | 近藤 亮一(弘前大学) |
英語には、wh要素とeverから構成される複合語(e.g. whatever)を伴う自由関係節が存在し、この種の自由関係節では、その複合語に名詞(句)などが後続することも可能である(e.g. whatever books … )。先行研究で報告されているように、初期英語においては、wh要素とsoeverから構成される複合語(e.g. whatsoever)を伴う自由関係節が多く観察されていた(cf. Jespersen(1949), Wu(2021))。Wu(2021)は、歴史コーパスを用いて調査を行い、wh要素とsoeverが独立した語として生起する場合、名詞(句)などがsoeverに後続する語順パターン(e.g. what soever NP)と、それらがwh要素とsoeverの間に介在する語順パターン(e.g. what NP soever)が可能であることを観察している。 |
本発表の目的は、初期英語に見られるsoeverを伴う自由関係節に対してラベル付け理論に基づいた分析を提案することである。本発表では、当該の種類の自由関係節において複数の語順パターンが可能であるという事実を理論的に説明し、関連する言語事実に対して史的統語論の観点から分析を与える。 |
★17:05~17:40 | 司会:関田 誠(東京電機大学) |
「英語の指定的疑似分裂文の単一節分析」 | 松山 哲也(和歌山大学) |
本発表は、カートグラフィーの枠組みで(1)の指定的疑似分裂文(SPC)の構造を精緻化する。 |
(1) | What Johni is is important to himselfi. |
SPCと二重コピュラ構文を比較し、前者のbe動詞が後者の焦点標識のように振る舞うことを着目し(Massam(1999))、beは左周辺部のFocを占めると提案する。wh節のwh要素は、前置詞を随伴できないことから(Akmajian(1970: 77))、補文標識としてFinを占めると提案する。これらに基づくと、SPCは派生の初期で(2)の単一節的な構造を持つ。ここでJohnはhimselfをc統御し連結性が説明される。
|
(2) |
[FocP Foc-be [FinP Fin-what [TP John is important to himself]]]
|
次に、焦点要素がFoc指定部に移動し焦点解釈を得る。beが時制を得るためにTopに移動するとともに「前提」を表すFinP全体(網掛け部分)がTopP指定部に移動しSPCが派生される。 | |
|
|
発表では、本分析の妥当性を様々なデータで検証していく。 |
◆17:45〜17:50 | 閉会の辞 | 副会長・大会運営委員長 加賀 岳彦(日本女子体育大学) | ||
※ | 「本部・研究発表第1室URL」からご参加下さい。 | |||
《大会運営委員会より》 | |
■ | 今大会はZoomにて2室に分かれての開催になります。大会前に以下の参加URLを配信いたします。 |
・「本部・研究発表第1室URL」 | |
・「研究発表第2室URL」 | |
入退室の際は、一旦、退室して頂き、上記URLから入り直して下さい。 | |
また大会運営委員会の許可がない限り、会員以外の方々へ上記URLを広めることはお控え下さいますようお願い申し上げます。 | |
■ | 一般参加者(本学会の通常会員・学生会員・賛助会員以外)について: |
オンライン開催にあたり、2月25日(土)まで大会運営副委員長 川﨑修一に会員より推薦・招待があった方を一般参加者とし、大会運営委員会より大会参加URLを提供致します。なお今大会は当日会費(500円)をお支払い頂く必要はございません。 | |
■ | 発表配布資料: |
大会前に学会HPにアップ致します。会員に配信するパスワードでファイルを開いて下さい。なお、本フォルダーは大会終了後に閉鎖させて頂きます。 | |
■ | 大会の録画、配信等はお控え下さいますようお願い申し上げます。 |
■ | その他ご不明の点などございましたら、大会全般に関しましては大会運営副委員長 川﨑修一まで、オンライン接続など技術的なことに関しましては大会運営委員 佐藤亮輔までお問い合せ下さい。皆様のご参加をぜひお待ち致しております。 |